「アバディーン // 夕張」スコットランド・アバディーンと北海道・夕張市という遠く離れた二都市をつなぐ版画制作プロジェクト
「アバディーン // 夕張」は石油・ガスの街として栄えてきたスコットランド・アバディーンと、炭鉱の町として栄えた北海道・夕張市という遠く離れた二都市をつなぐ文化交流の試みです。
本交流は2018年、メイボン尚子(アバディーン在住キュレーター)と佐藤真奈美(一般社団法人 清水沢プロジェクト 代表)がお互いの町を訪ね、両地の人々と地域の過去・現在・未来や独自性、今後の交流の可能性などについて意見を交わす一連の活動を機に始まりました。
この成果を基に「規模は小さくとも未来に永く続く二都市間の交流のかたち」を探るべく、この度メイボンと佐藤はアバディーン市からの助成ならびに再びピーコック・ビジュアル・アーツからの協力を受け、両地の人々や文脈に寄り添う版画制作プロジェクトを行います。
具体的にはそれぞれの地域から参加者を、2018年の活動のなかでメイボンと佐藤に直接関わりのあった個人や組織を優先的に考慮しながら、決定します。
参加者には「自分の町の風景」というテーマで写真を撮影してもらいます。
候補写真三枚が参加者間で交わされ、それぞれが最も「相手の町の風景」を表していると想像する相手の写真を一枚選びます。
選ばれた二枚の写真は、隣同士に並べられ、参加者の選んだ色を使い、版画工房として45年の歴史を持つピーコック・ビジュアル・アーツの版画専門家によって一枚の紙の上に丁寧に印刷されます。
完成作品は額装され、両参加者・両市・協力機関を中心に寄贈され、両市のユニークなつながりや関係性を象徴的に表現します。
自然のサイクルが生み出す有機物が、人間の開発する技術を介して化石燃料となり、経済活動だけでなく地域の文化や誇りなど非経済的な価値を生み、支え、育む。
この一連の生産活動はこの度目指す版画制作のプロセス – 地域の原風景を人間の技術(写真、版画)によって捉え、美術作品として昇華させ、経済価値には換算できない地域の文化や誇りを改めて見つめ直す – に響き合います。
それぞれの地域に日々暮らし、関わる人の目で捉えられる風景は、インターネット検索で簡単に得られる「一般的に理解されている地域の姿」とは違うものであるかもしれません。
プロジェクト期間はラグビー・ワールドカップと東京オリンピック・パラリンピックを契機にする「日英文化季間」と重なります。
またアバディーンは日本の近代化に貢献した幕末の商人トーマス・グラバーの故郷であること、そして2019年はグラバーが初めて日本に上陸した年からちょうど160年目になることからも、本事業を通じ、遠く離れた都市や国の間の交流はもちろん両地に関わる人々のまなざしや活動に着目し、それらをより活発に盛り上げる狙いがあります。
企画・運営
メイボン尚子 (アバディーン在住キュレーター)
佐藤真奈美(一般社団法人 清水沢プロジェクト)
助成
アバディーン市「クリエイティブ・ファンディング」
協力
ピーコック・ビジュアル・アーツ
後援
夕張市・夕張市教育委員会
特設ウェブサイト
https://aberdeen-yubari.tumblr.com/
<アバディーン側の参加者>
デイヴィッド・フライヤー氏(David Fryer)
アバディーンのトリー地区に住み、同地区の市民の先頭に立って地域の環境、歴史、文化、芸術を守る活動を行なってきた運動家。地元の漁師たちが集めた資金で1878年に建てられたヴィクトリア・ロード小学校が2008年に廃校となって取り壊しが決定された際は「トリー・デベロップメント・トラスト」を有志と立ち上げ、長い戦いの末地域の歴史遺産を守ることに成功した。治安の良くないレッテルを貼られがちなトリー地区が新たなゴミ焼却炉建設地候補に挙がった際は、それに待ったをかけるべく地元のキュレーターやデザイナーたちと協力し誰でも説明書があれば組み立て可能なDIY大気質モニターを設計、地域レベルで科学的に説得力のあるデータ収集を行い、地域の環境を守る立場を取り続けている。トリー地区の集いの場「オールド・トリー・コミュニティ・センター」の運営にも携わる。
<夕張側の参加者>
夕張市立ゆうばり小学校の児童から作品を公募します。
夏休み前に公募のお知らせを配布し、参加希望の子どもは夏休み期間を使って写真を撮影、清水沢プロジェクト宛に作品を提出します。清水沢プロジェクト審査チームが3作品を選考、最終的にアバディーン側の参加者であるデイヴィッド・フライヤー氏が版画作品になる1作品を選びます。夕張でも3作品の撮影者に集まってもらい、フライヤー氏が撮影した3枚の写真の中から版画作品となる1枚を選びます。最終的に選ばれるのは写真の善し悪しではなく、お互いの感性や想像による「相手の町の風景」を表している写真です。また、それぞれの参加者に選定理由や感想を簡単に述べてもらいビデオレターのような形でまとめ、交換するなど、なるべく参加者同士の顔が見えるかたちのやり取りを考えています。