報告その2「最果ての鉄路に未来はあるか―日高線を事例に学ぶ“夕張線”の存続問題―」勉強会

「報告その1「最果ての鉄路に未来はあるか―日高線を事例に学ぶ“夕張線”の存続問題―」勉強会」に続き、その2です。

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ノスタルジーでは飯は食えないが、技術の継承では飯が食えるかもしれない

明治25年、炭鉱の成立からわずか2年で、石炭を運ぶための鉄道が敷設された夕張。
現役として使用しているトンネルや橋梁には大正期に建造されたものもありますが、老朽化が著しく、補修に多額の費用がかかることをJRは懸念しています。

しかし、産業遺産としての価値、ノスタルジーのようなものをいくら主張したところで受け入れられないとしても、それを超える説得力が夕張にはあると、参加者はいいます。

JR北海道は、本来DMV(デュアル・モード・ビークル…線路も道路も走ることができる、JR北海道が世界で初めて開発した車両)などの優れた技術力を持つ一方で、社員の安全意識の低下がもたらした事故が頻発しています。

この原因を、昭和62年の国鉄分割民営化の際、人口密集地域が少なく営業キロが長い北海道を、経営安定化基金の運用益で赤字を補填するとはいえ、単独の民間企業として運営させることに、最初から無理があったのではないかという指摘があります。
人材も技術も分割されたといわれる分割民営化。全線が赤字のJR北海道では、効率・利益を追求する企業活動が成り立たないのです。

もっと言えば、北海道自体が効率追求では成り立たないのかもしれません。

鉄道の安全は、幾多の失敗を糧とした経験の継承により発展してきました。
国鉄時代に制定された、全職員を対象にした「安全綱領」は、まさに鉄道職員としての規範意識を明文化したものです。

  • 安全は輸送業務の最大の使命である。
  • 安全の確保は規程の遵守及び執務の厳正から始まり不断の修練によって築き上げられる。
  • 確認の励行と連絡の徹底は安全の確保に最も大切である。
  • 安全の確保のためには職責をこえて一致協力しなければならない。
  • 疑わしい時は手落ちなく考えて最も安全と認められるみちを採らなければならない。

(Wikipediaより引用)

歴史的に鉄道の安全は、「規範」として精神面に訴えかけて守られてきたという側面もあります。
ノスタルジーや精神論だけでは鉄路は残せません。しかし、お金に換算できない精神論的な価値が認められるということも、歴史的価値を含んだ夕張線にはあってもいいのではないでしょうか。
鉄道の意義、技術の継承の大切さを考えるモニュメントとして残るというのも、わが国の近代化に貢献してきた夕張だからこそできることかもしれません。

昭和50年12月、国内最後の蒸気機関車牽引による営業列車が走った夕張線。そこに刻まれた様々な歴史は、武藤さんが示した鉄道を利用した観光振興にも繋がる可能性がありそうです。
※輸送密度が低下したら、実験線、実習線として利用するのも一つかもしれません。(佐藤私案)

魅力ある鉄路づくりをみんなの手で

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今回の勉強会は、なにか結論を出すものではなく、日高線と夕張線の比較から、お互いの課題解決に向けたヒントを見つけ出そうとするものでしたが、予想以上の成果を得ることができました。

特に、他の地域の人と話すことが、自分の地域を冷静に見つめた議論につながったと思います。

よその地域から客観的に「夕張線は路線そのものが文化財である」と評価してもらえるとありがたいですし、日高線沿線についても「駅の数がたくさんある。その全てに降りてみたい」というような発想は地元には絶対ないと武藤さん。
お互いが気づかない魅力を指摘し合えたのも収穫ではなかったでしょうか。

最後に武藤さんから、「日高はある日突然災害で鉄路が休止に追い込まれた。なくなってからでは遅いから、今のうちに鉄路の魅力をたくさん見つけてほしい。」とのコメントが。

参加者からは、「鉄道でなければ見られない景色や鉄道自体の文化財性に焦点を当てたマップがあればいいかも」「朝から晩まで9往復ずっと車内で飲み会をやる」といったユニークな意見が出ました。
これまで市民に欠けていた、努力する姿勢をJRや市に見せていくことも必要ですね。

二次交通として最も望みが高かったDMV営業運転への再挑戦の働きかけや、現行と同じ残し方ができない場合に観光鉄道へ転換するなど、夢物語とは言わず、諦めずに一つ一つ考えていくことも必要だと感じました。

武藤さん、ご参加の皆さん、ありがとうございました。
JR日高本線の一日も早い全線復旧を願い、私たちも自分事として行動していきたいと思います。

↓参加者の一人でもあった佐藤支局長による記事です。

JR夕張支線、将来像は? 運休続く日高線と重ね議論 | どうしんウェブ/電子版(道央)

02/18 07:00、02/18 11:57 更新 …

※本エントリーは、参加者の方々の意見を元に記載していますが、筆者である私佐藤の主観が多めに入っている部分もあります。
新聞での報道とも比較して、みなさんが夕張線問題を考える際の参考にしていただけると幸いです。
※私自身、社会人の振り出しはJR北海道だったということも、ここに明記しておきます。