2025年2月滞在制作記録・谷口実里

北海道夕張市でのレジデンスが終了しました。
夕張のレジデンスでは記憶に関する心の揺れ動きをセルフポートレートの写真作品にしました。

夕張という地名のことは幼い頃から知っていました。
私が住んでいる京都府宮津市は財政危機に直面していて、小学生の時既に財政破綻をしていた夕張市を前に、
「宮津市は第二の夕張になるのでは」と大人達が話していたことをなんとなく覚えています。
メロンが美味しいこと以外に何も知らないまま、「夕張ってどんなところなんだろう」と小学生なりに想像していました。

美味しすぎるセイコーマートの北海道牛乳
滞在二日目に地域の方のお家にお邪魔し、ご飯とお風呂をご馳走になりました。地図を広げながら北海道の説明をしてもらい、「北海道はでっかいどう」と気づけば言っていました。

夕張に到着してからは、夕張のこれまでの歩みのことを伺いました。
炭鉱から観光へ、そして財政破綻をするまでの道のりのことを知りました。
それから導かれるように、制作場所は炭鉱時代石炭の不純物で出来たといわれている人工山、「ズリ山」を選びました。
不純物である夕張のズリ山の地層と、私自身がこれまで歩んできた人生を重ね合わせながら、ただひたすらにセルフポートレートを撮影していました。

私が選んだズリ山は40年の歴史を重ねて木が少しずつ生えるようになってきていることを、地域の方から教えてもらいました。
それはかつて不純物だったものと自然のものとが溶け合い始め、少しずつあるべき姿へと還ってきているということです。

私自身、記憶の定着しづらさを抱えていて、だからこそ幸せだった瞬間の記憶を取り出せなくなってしまうことに対する恐れがありました。
それでもいつか全てを忘れたとしても、私達は大地の一部となれる。
そしてその頃には、あの日見たズリ山の木ような植物が私の上に一本生えているのかもしれないなと、夕張でのレジデンスを終えた今、こんなことをぼんやりと考えています。

きっとこれから生きていく中で、たくさんの葛藤が生じるのだと思います。
それでも夕張の地層に触れ、自分自身の過去を懐古することを経て、これから先何があっても自然の流れに身を任せて生きていけばいっかと、少しだけ肩の荷を下ろすことができました。
そして行き着く先でいつか自分自身のことを受け入れて、これまで反発してきた何かと溶け合うことができたらいいなとも思っています。

りすたでの展覧会

夕張で地域の方々に大変良くしていただきました。
銭湯で出会った推定60代から70代のお姉さま方と恐縮ながらも浴場仲間とならせてもらい、それぞれ自分の体を洗いながら昔話に花を咲かせてみたり、「これ、差し入れ!」とたくさんのお心遣いをいただきました。
これまで夕張の土壌が育んできた懐の大きさを、また地域の方々に対しても感じました。
感謝します。

寒太郎まつりで食した豚汁(具沢山!)
これも寒太郎まつりでいただいた長芋をステーキに
夕張在住のご婦人方に大変お世話になった宮前町浴場
送別会をしていただきました。嬉し楽しでした。

いつか私達は全て忘れていくのかもしれません。
それでも私達は一本の木になることができるし、そして大地はそのことを全て覚えている。

夕張で溶け合えたことに対する喜びを胸に、また一歩一歩、歩みを進めていきたいです。

ありがとうございました。

(文・写真/谷口実里)

飛行機から見た雲がズリ山の雪景色のようでした

谷口実里個展「しあわせな体温を魔法瓶に入れて」

清水沢コミュニティゲート アーティスト・イン・レジデンス成果発表

日時

2025年2月22日(土)10:00〜17:00

場所

拠点複合施設りすた 待合交流スペース
入場無料

主催

谷口実里

共催

一般社団法人清水沢プロジェクト
夕張市幸福の黄色いハンカチ基金助成

カバー画像撮影:高橋智敏